第2章 医療・保健

<<バングラデシュの主な病気と対策>>

 

  • 下痢症

原因としては、コレラ、細菌性赤痢、ジアルジア、アメ-バ-性赤痢、イソスポーラ、病原性大腸菌、サルモネラ、キャンピロバクタ-、ロ-タウイルス等がある。手洗い・うがいを励行し、生野菜・生水を避ける事で、かなり予防できる。ひどい下痢になった時は、脱水を予防するため水分の補給をする。スポーツ飲料を通常より20%くらい薄くしてぬるま湯くらいの温度で飲用する。スポーツ飲料がない場合は、1リットルの水に食塩3.5g(小さじに1杯ぐらい)、砂糖40g(小さじ8杯ぐらい)、レモン果汁を加えたものを用いる。

  • 細菌性赤痢・アメーバ赤痢・腸チフス、パラチフス

汚染飲食物からの経口細菌感染で、生命にかかわる率の高いのは腸チフスや赤痢。日本では腸チフスのワクチンは製造されておらず、予防接種が受けられないが、腸チフスの欧州製ワクチン(有効率70%)は当地で入手可能(ただしパラチフスには無効)。日本人の患者も散発的に発生しており、帰国した例もある。腸チフスでは発熱のみが続いて腹部症状がないことがある。原因不明の高熱が続く時は常にチフスの可能性も考え血液検査が必要。抗生物質が有効だが乱用のためニューキノロン系は耐性菌が多い。放置していると腸穿孔や消化管出血のような致命的合併症を起こす危険がある。

  • 風邪

雨季は蒸し暑い為、一日中エアコンを使う家庭が多く、寝冷えをし、風邪をひきやすくなる。乾季には空気が乾燥し、排気ガス・砂ほこりで喉を痛める事が多く、風邪が流行する。できるだけ頻繁に手洗いとうがいをし、予防するように。インフルエンザは当地では季節流行はなく、一年中発生するので、38度以上の高熱が出る場合はインフルエンザの可能性があることを頭に入れておくこと。インフルエンザの予防接種を受けておくことを勧める。

  • 熱中症

暑い直射日光の下や、閉めきった暑い部屋で激しい運動や労働をすると、体温は上昇するのに汗が出ず、体に熱がこもってしまうことがあり、時に重症化する。高温・多湿・無風という環境が大きく影響し、虚弱体質・飲酒・過労なども原因となる。突然意識を失う事もあるので注意が必要。体温の急上昇(40℃以上)・頭痛・めまい・吐き気・疲労感・真っ赤な顔・汗の出ない乾いた皮膚等の症状が出ると危険。涼しい換気の良いところに移るか、扇風機やエアコンの風に当たり、水分の補給をすること。重症の場合は、冷たいタオル・氷片・アルコ-ル綿で全身をマッサ-ジするなど体を冷やし、点滴が必要になる。炎天下でゴルフやテニスをする際は水分を補給しながらプレ-すること。

  • 湿疹など皮膚の病気

汗やほこりで皮膚は不潔になりやすく、雑菌が多いため湿疹が出やすい。蚊に刺された傷口からバイ菌が入り化膿することもあるので、掻きこわさないこと。ちょっとした擦り傷等でも消毒を怠ってはいけない。アトピ-性皮膚炎は悪化する傾向がある。

  • 肺結核

2005年度の統計によると、毎年30万人の患者が発生し7万人の死亡が報告されている。バングラデシュでは最もありふれた肺の病気で、結核患者は日本のように管理されておらず、使用人が感染していることもあるので、必ず雇用時と年1回は使用人の健康診断をする。近年、薬剤耐性の結核が増加している。多剤耐性結核菌感染は現在でも治療が困難な重篤な疾患。

  • 破傷風

バングラデシュでは死因のかなりの割合を破傷風が占めているが、日頃から裸足で外を歩かないようにしたり、むやみに素手で土に触れないなど気をつけていれば予防できる。破傷風ワクチンは3種混合に含まれているが、日本では1967年以前に生まれた方は3種混合の接種が行われていないので、必ず接種すること。外傷を受けた時は、過去に3回以上の接種歴が無ければ、必ず破傷風ワクチン(トキソイド)を受ける。接種後5年以上経過した人もワクチンを受ける必要がある。トキソイドを1回以下しか接種していない人が不潔な外傷を受けた場合、破傷風免疫グロブリン投与の対象になる。

  • A型肝炎

経口感染する為、汚染された生野菜・魚介類・果実・牛乳などを介して感染する。特に加熱が不十分な貝は要注意。潜伏期間1549日(平均30日)で感冒様症状で発症し、次第に黄疸が出る。ダッカでも流行する事があり、日本人の発症もある。一般にA型肝炎ウイルスは抵抗力が強いと言われているが、 100℃ 20分の加熱で完全に死滅する。特に流行時は充分に煮沸する必要がある。過去に感染した人は生涯免疫を獲得しているので、再感染することはない。

  • B型肝炎・C型肝炎

B型やC型の肝炎ウイルスを含む輸血や血液製剤の注射をうけたとき、同じ注射針を消毒せずに複数の人に使ったとき、あるいは性行為等で感染する。1~6ヶ月の潜伏期間を経て黄疸を主な症状として発病する。ウイルスの量と個人の抵抗力等により症状にも差が出る。C型肝炎は慢性化しやすく、肝臓癌の原因にもなることがある。当地で医療行為を受ける場合、必ず使い捨ての注射器、注射針を使っているかの確認が必要。C型肝炎の予防接種はない。

  • E型肝炎

E型肝炎ウィルスはアジアにおける流行性肝炎の重要な病因ウィルス。主に水系 経口感染で、雨期に発生頻度が増す。症状はA型肝炎と似ているが、死亡率は10倍で、特に妊婦が発症すると死亡率が高く、注意が必要。予防接種はない。

 

  • デング熱

デングウイルスが病原体で、熱帯シマ蚊(日中10時頃から午後4時頃が活動のピ-ク)を媒体に感染する。ウイルスに4型あり、理論的には4回かかることがある。今のところワクチンは市販されていない。突然の高熱38℃以上(3-4日間持続)に続き、突然下熱そのころからかゆみを伴う真っ赤な発疹が体幹、手足の先に出現するのが典型

的な症状。診断は下熱した頃にウイルス抗体を測定して確定。インド・スリランカでは毎年多数の日本人患者が出ている。バングラデシュでは2005年の患者数1048、死亡4名。一般にデング熱の予後は良好だが、たまにデング出血熱という重篤な状態に陥ることがある。デング出血熱の初期症状はデング熱と区別がつかないが、発熱3~7日後、ウイルスによる骨髄抑制のため白血球や血小板が減少そのために出血傾向を呈する。歯を磨くと血が出たり鼻血が止まらなくなったりしたら要注意。日本人の感染は初回であることがほとんどなので、デング出血熱を発症する確率は小さいと推測される。出血傾向を助長するので、解熱剤としてバファリン(アスピリン)は使わないほうがいい。

  • マラリア

4種類あるが、ほとんどが三日熱マラリアと熱帯熱マラリアで、いずれもハマダラ蚊によって媒介される。ハマダラ蚊の活動時間は熱帯シマ蚊と異なり夕方から夜。今のところダッカでの流行はみられないが、流行地域はダッカ近郊60kmくらいまで拡がってきており、今後交通手段の発達と共に波及する可能性がある。地方、特にチッタゴン丘陵地域は濃厚汚染地で、西ベンガル地方でも流行が拡大しつつある。1995年、シレット周辺でも多数の重症患者が出ている。1991年、日本人がチッタゴン丘陵地域で熱帯熱マラリアにかかり死亡している。マラリア感染地域の人口が約1500万人、、2008年の患者数80000人死者は154名となっている。予防するためには、まず流行地に入らない、蚊に刺されないこと。ハマダラ蚊は羽根にマダラ模様があり、静止時または吸血時には、尾、腹を上げているので他と区別できる。

 

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    • 外出する際には、長袖のシャツと長いズボンを着用。皮膚の露出した部分には蚊の忌避剤を塗布する事。暗い色の衣類・オ-デコロン・アフタ-シェ-ヴクリ-ムなどは、蚊をひきつける。薄い衣服だと外から吸血されるので、忌避剤を塗布した方がよい。忌避剤は乾くと効果が薄れるので、頻繁に用いる必要がある。
    • 昼間に入ってきた蚊を、夕刻になる前に退治してから休むこと。
    • 網戸があっても蚊が侵入する場合には、殺虫剤を噴霧すること。
    • 一晩中、蚊取り線香などの殺虫剤を効かせておくこと。
    • 睡眠中は蚊帳をかけ、パジャマを着用。蚊帳はマットレスの下に折り込んで隙間を少なくし、忌避剤を染み込ませた蚊帳を使うとよりよい。
    • 汚染地域に入る際には、約1週間前から予防薬を必ず服用のこと。
  • 日本脳炎

蚊によって媒介されるウイルス疾患で、7月から12月にかけて、主にタンガイル・ダッカ・ラッシャヒ地区から散発的な発生が報告されている。赴任時にワクチン接種を受けることを勧める。特に農村地帯に長期滞在する人は必ず接種すること。

  • 狂犬病

狂犬病ウイルスに侵された動物(犬・猫・コウモリなど)から感染する。当地で犬に噛まれたら、できるだけ速やかに創傷部位を丁寧に洗浄し、必ず狂犬病ワクチンによる免疫を開始すること(予防接種が済んでいる人も動物に咬まれたら新たな狂犬病ワクチン接種が必要)。破傷風トキソイドも接種歴に応じて接種する。もし噛んだ犬が10日経っても死なない場合はほぼ安全といわれており、その時点でワクチンの注射は中止してかまわない。狂犬病は発病すると確実に死亡し、バングラデシュでは狂犬病で毎年5000人が死亡している。

  • 蛇咬症

 毒蛇の被害が時々報告されており、症状・被害の程度・治療のための抗血清は、へびの種類によって異なる。大切な事は、咬まれたからといって慌てないこと。たとえ毒蛇に咬まれたとしても、毒が注入される確率は50%に満たないと報告されているので無理に蛇を捕獲しようとせず、創部を安静にして速やかに病院受診をすること。咬まれた傷の中枢部を緊縛することは禁忌。

  • 寄生虫

バングラデシュは濃厚分布地域。生水・生ものを避けることはもとより、葉野菜のサラダには気を付ける(葉に虫卵が付着している)、素手で土をいじらない、肉・魚は充分火を通して食べる、蚊になるべく刺されないようにすること等の注意が必要。

 

 

  •  
    • 飲み水や生野菜から感染する寄生虫には、赤痢アメ-バ(アメ-バ性赤痢)、ランブル鞭毛虫(ジアルジア症)、蛔虫、鉤虫、蟯虫がある。
    • 淡水産の魚介類や食肉から感染する寄生虫には、顎口虫、さなだ虫、トキソプラズマ、旋毛虫等がある。

    • 皮膚から幼虫が侵入し感染する寄生虫には、糞線虫、鉤虫がある。

    • 昆虫に刺されて感染する寄生虫には、マラリア原虫、リーシュマニア(カラ・アザ-ル)、フィラリアがある。

    • 体表に住み付く寄生虫には、ダニ、シラミがある。それぞれ疥癬、毛ジラミ症の原因となる。

  • 水質汚染と大気汚染

砒素による水質汚染が国際的に注目されている。大気汚染は、急速に増加した車、特に整備不良車による排気ガスがひどく、一日中外出した際、喉や眼の疼痛を引き起こす。

 

  • 交通事故

交通ルールがほとんど守られていないため、細心の注意が必要。道路の横断はかなりの危険を伴い、横断歩道に人がいても車は止まらない。乗り合い自動車の事故も多発している。地方では車のスピードが速いため、さらに重大な事故が頻発している。交通事故に遭っても緊急車両や適切な病院が無かったり、すぐに対応できない所が多いので、地方を車で移動する際は携帯電話を持参することを勧める。

大使館領事担当 緊急時連絡先 01713-037811, 01713-037814, 01713-037822

  • 適応障害

     一般の日本人にとって、気候や生活環境が厳しいこと、宗教の違いなどから反応性の適応障害に陥り、短期間で帰国を余儀なくされた例も珍しくない。ストレス・カルチャーショック・うつ状態など、多少は一時的に誰もが罹る正常な反応だが、時に不安定症状であったり、自覚症状として訴える事が困難な場合もある。周囲の人が重症だと判断したら、いち早くしかるべき人に報せる必要がある。また、日本とは異なった環境の中で、色々なうわさが流れることがあるので、うわさに惑わされたり、振り回される事の無いように自分で真実を確かめよう。

  • 生活習慣病

不健康地という事で栄養に気を使い過ぎたり、日本にいた時よりも食事会の機会が多くなった為など、当地で意外と多いのが生活習慣病。娯楽も限られており、ストレス・運動不足も手伝って、高脂血症・糖尿病・痛風・肥満症・メタボリックシンドローム・アルコール中毒症等になりやすいので注意すること。

  • ハンセン病

日本ではほぼなくなりかけた病気だが、バングラデシュでは数十万人が罹患している。感染力は弱く、通常の生活では感染することはまれ。

  • エイズ

WHOによるとHIV感染者は2万人と推定しているが、検査施設も少ない事から実態ははっきりしていないのが現状。近年アジア地域のエイズ感染者は急激に増加しており、インド 500万人、タイ 100万人、ミャンマ-40万人と推定されている。公立病院を含め多くの医療機関では、使い捨ての注射針を消毒が不十分なまま複数回使用することもあるため、経血液感染の原因となり得る。むろん当国での輸血は大変危険である。

 

 

 

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